「観光客を呼び戻せる「魅力ある箱根」へ12社が経営統合する小田急グループの挑戦」 |
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2007年 WEDGE 4月号掲載 |
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今回とりあげる小田急箱根ホールディングスは、小田急グループの戦略上の重要拠点である小田原・箱根エリアで事業を展開するグループ企業を統括する持ち株会社である。観光事業の振興には、交通、宿泊、飲食など、異なる業種業態の企業を効率よく運営しつつ、最大のシナジー効果を得られる、持ち株会社という形態が適している。必要とされるのは、グループ本社とも連動した迅速な意思決定であるが、そのためには決算業務をはじめとする経理、会計業務の効率化とスピードアップが必要だ。小田急箱根ホールディングスが選んだソリューションは、ICSパートナーズの「INPACT
OPEN 21u」だった。 |
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●小田急グループの戦略拠点エリアでトータルな観光サービスを展開 |
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小田急箱根ホールディングスが統括する各社が事業を展開する箱根は、言うまでもなく、日本有数の観光地だ。東京都心から電車で約1時間の近さに、小田原城をはじめとする史跡、箱根山の雄大な自然と温泉、美術館などの文化施設が集まる良質なアミューズメントエリアであり、そのポテンシャルは計り知れない。小田急グループにとっても箱根は新宿に並ぶ重要拠点であるが、その位置付けは大きく異なる。沿線にこれだけの規模のリゾートを抱える私鉄は他になく、箱根の魅力が高まることは、沿線のグレード感創出につながる。巨大ターミナルであり商業集積地である新宿がキャッシュフローの源泉であるのに対し、箱根は世田谷、多摩、神奈川エリアの約482万人(2005年1月現在)の沿線住民の満足度を高めるための戦略エリアなのだ。しかし、最盛期には年間2300万人が訪れた箱根も、東京ディズニーランドをはじめとするテーマパークの台頭、湯布院や京都などの有名観光地のマーケティング強化により、その集客力に陰りが見え、現在は年間1900万人程度に留まっている。箱根の魅力を復活させるべく、2004年10月、小田急グループはそれまで個別に事業展開していた12のグループ会社を統括する「小田急箱根ホールディングス」を発足させた。駅から宿まで大きな荷物を運ぶ「キャリーサービス」の他、箱根エリア全体の案内サイン類の統一、芦ノ湖の新型海賊船建造、箱根の総合情報サイト「Hakone
Navi」や携帯電話向けの「箱根フリーパス乗り物運行状況」の開設など、事業会社をまたがるサービスや施策を展開している。また、学生音楽祭やジャズ温泉などのイベントに協賛したり、閑散期となる冬の集客を目的に、美術館周遊クーポンを企画するなど、箱根町や町内の各施設との連携にも力を入れている。 |
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●機能別に統合された本社で経営のスピードアップを実現 |
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経営統合の効果を目に見える形にするには、経営のスピードアップが大きな課題だった。迅速な意思決定のために、同社では各事業会社の本社機能を小田原にある本社ビルに統合した。特徴的なのは、フロアのレイアウトだ。二階には経理、三階は総務、四階は経営企画と営業企画と、会社別ではなく部門別に集約し、各社間の緊密な連携と、リソースの共有による経費削減を両立させた。「同じフロアにいるので、打ち合わせ一つにしても、時間と場所を調整して、社外へ出かけるといったわずらわしさがなく、仕事の合間でも話ができるので、意思疎通が格段にスムーズになりました」と経営統括部アシスタントマネジャーの高橋一明氏は語る。2005年7月からは、経営課題に対応して、社内にコンプライアンス委員会、グループマーケティング委員会、サービス向上推進委員会、防災・環境対策委員会を立ち上げた。従来、事業会社が個別に取り組んでいたものを統一的に見ることで、箱根エリアの魅力向上を目的としたグループ全体の意識のすりあわせと最適化された施策の実現が目的だ。さらなるスピード化のための重要な課題が、会計システムの見直しだった。「当初は事業会社ごとにハードもソフトも異なる会計システムが動いていました。決算業務自体に時間がかかるだけでなく、各社のデータを引き出すにもそれぞれの担当者に出力を依頼し、さらにそれを手作業でパソコンに打ち込んで集計するなど大変な手間を要していました」(経営統括部アシスタントマネジャー佐野剛氏)。 |
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●複数の事業会社の会計業務を単一パッケージで統一して運用 |
小田急箱根ホールディングスは、小田急電鉄を核とする小田急グループの連結決算の対象となっている。小田急電鉄では財務会計業務に大規模なERPシステムを導入しており、小田急箱根ホールディングスでも同じシステムを検討していたが、最終的には導入を見送った。最大の理由は、組織の規模の違いだ。「小田急電鉄は社員数が多く、例えば何階層もある組織を前提とした電子承認システムが構築されているなど、業務フローが当社よりもかなり複雑でした。組織の規模が違う当社にそのまま導入するのは、非効率であると判断しました」(高橋氏)。そこで、改めて会計システム導入の検討がスタートした。検討時に重視したのが、「鉄道事業会計規則」に対応できることと、カスタマイズ不要なパッケージで鉄道会社と他の事業会社の会計業務を束ねて運用できることの2点だった。鉄道事業会計規則は勘定科目の規則が特殊であり、一般の会計ソフトでは対応することが難しい。また、近年、鉄道に限らずさまざまな事業分野で、法規制の見直しが進んでおり、それに対応して会計規則の変更が発生している。変更に迅速に対応するためには、カスタマイズが必要なソリューションは適さないという判断だ。複数の候補から選ばれたのは、プラットフォームとなるデータベースエンジンにアイエニウェアの SQL Anywhere Studioが採用されている財務会計パッケージ「INPACT OPEN 21 4u」だ。鉄道事業会計規則に対応した勘定科目の設定は、部門や枝番を使うことで容易に対応できた。また、複数の事業会社の会計業務への対応も、パラメータを設定するだけで、カスタマイズのいらない点が評価された。唯一作り込んだのは、グループの連結決算データ作成のためのエクスポート機能だった。「作るまではこの機能にあまり必要性を感じていなかったのですが、実際に運用を開始してみると、大幅な時間短縮と省力化を実感しました」(佐野氏)
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●月次決算業務の大幅な効率化とグループ各社の人材交流を実現 |
導入を決定したのは2005年の8月、事業会社各社の経理実務担当者によるプロジェクトチームが導入作業をリードした。最も苦労したのはマスター体系の再構築だった。「中科目、小科目を活用すれば、現在の各社の勘定科目を変えずにシステムを導入できる点が、INPACT
OPEN 21 4uの魅力でもあったのですが、今後はホールディングス全体の経理を統一し、管理していくために、あえて取引先や業務などのマスター体系の再構築に取り組みました」(高橋氏)。マスターが決定した2005年の年末からわずか3ヶ月後の2006年4月には、7社で新システムを先行稼動させた。「ICSの担当者の方々は、会計の専門的な質問にもその場で対応してくれるので、会計専門のソリューションベンダーとして信頼できました。これほど短時間で導入できたのも、そのおかげだったと思います」(高橋氏)と、高く評価している。システムの稼動後しばらくは、システム変更に伴う混乱や負担増もあったが、今は安定して稼動している。「業務別に入力画面をパターン化することで、入力業務の省力化が図れる点が好評です」(佐野氏)。システム導入前は、締め日から1ヶ月程度かかっていた月次決算業務も、翌月12日には完了できるようになった。その導入効果は大きい。今後は、統一されたシステムを活かし、事業会社間での経理担当者の配置見直しや業務統合を通して、経理業務の集約を図っていく意向だ。さらに、管理会計のレベルアップも視野に入れたシステム拡張も検討しているという。魅力ある箱根エリアの復活に向けて新たな施策を展開する小田急箱根ホールディングスを、INPACT
OPEN 21 4uが強力にバックアップしている。 |
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小田急箱根ホールディングス株式会社
〒250-0045
神奈川県小田原市城山1-15-1
TEL.0465-32-6800
http://www.odakyu-hakone.jp |
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2004年10月、小田原・箱根エリアの観光事業振興を目的に、同地区を事業エリアとする小田急グループ12社の持ち株会社として設立。箱根登山鉄道を前身とする同社は、鉄道事業を含む全事業を会社分割により新設会社へ分割し、持ち株会社となった。鉄道会社を母体とする持ち株会社としては、日本初である。 |
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